応募作13

「ブタ女」

司條由伊夏 

 わたしは幼少の頃から肥っていました。それは仕方がありません。食べることが大好きだったのですから。でもわたしは、肥っている自分が嫌いではありませんでした。肥っていることはわたしのアイデンティティーですらあり、だから「デブ」と呼ばれても傷つくことはなかったのです。肥っている人にデブと言って、何の悪いことがあるでしょう。
 しかし、中学に上がってすぐ、わたしは大阪に転校しました。そして教室で自己紹介をした直後。一人の男子がこう叫んだのです。
「めっちゃブタや! ブタ女や!」
わたしは愕然としました。ブタだなんて。まさか肥っているだけで人間扱いすらされないだなんて。大変なショックでした。
 それでもわたしは、肥っているといじめられやすいことは知っていましたので。明るいキャラを演じ、人気者になることに成功しました。女子からは「ぶーちゃん」と呼ばれ、それは不快ではなかったのですが。問題は彼でした。最初にわたしを「ブタ」と呼んだ彼は、ことあるごとに「ブタ、ブタ子、ブタ女」とわたしを嘲ったのです。何でもない風ににこにこしながら、わたしの中で怒りは徐々に高まっていきました。

 彼はきっと知らなかったのでしょう。ブタは決して鈍重な生き物ではないのだと。実は非常に貪欲で、何でも喰らってしまう凶暴な生き物なのだと。

 彼がいなかったことで、わたしは心穏やかな一日を過ごせました。お昼休みになり、机の上に出したお弁当箱を見て、仲の良い女子が不思議そうに言いました。
「ぶーちゃん、今日はお昼そんだけ?」
「うん。昨日、おいしいお肉いっぱい食べすぎちゃってさあ。まだおなかぱんぱん」
わたしはおどけるように、丸いおなかをぽんとたたいて微笑みました。