応募作8

「恋人」
高家あさひ
 しばらくのあいだ、私にとって大阪土産といえば、ホワイトチョコレートをクッキーではさんだラングドシャだった。
 それは北海道の土産だろう、と言われるかもしれないけれど、大阪に住んでいるひとが、来るたびに買ってきてくれたのだ。羽田空港で飛行機の乗り継ぎをすると、ゲートの近くに売っているのだという。
「それ、大阪のお土産ちゃうやん」と、私につたない関西弁で言ってほしかったのだと思う。大阪生まれだから、というだけではもちろんないだろうけど、あのひとにはそういうユーモアがあった。だけどそれと同時に、そういうネタの仕込みがないと他人に話しかけることができない、シャイなところもあった。
それが、あのひとの愛おしいところだった。
 はじめて会話したときだって、そうだった。
「関西、来たばっかりなんやって? これこのへんの名物やから、いちど食べといたらええよ」
「はい。ありがとうございます」
「そこはツッコむとこやで。僕、昨日まで東北出張やってん。これは佐渡のお土産やんか」
 家族の近くを、と望んだのは私だった。だけどここは大阪からは遠い。理由をつけられるときでも理由がないときでも、折にふれて会いに来てくれたのは、とても嬉しかった。
 でも、ホワイトチョコレートラングドシャのお土産が途絶えて、もうどれくらいになるだろう。お姉ちゃん、あの大阪のひと、結婚するんだって。お盆に会いにきてくれた妹から聞いたのは、ついこの前のことだ。
 幸せになってほしいと思ってた。だから、祝福してるよ。草葉の陰から。だけど、直接おしえてほしかったかな。それともその報告を切り出すために、いまもっと大きなネタを考えてるところなのかな。