応募作7

「海な大阪」
ふじた ごうらこ
……ここは大阪の真ん中やけどな、昔は海の中やったんやでえ、こんな感じやったろうなあ……
 みいちゃんは魚の絵本を開いたまま、うとうとしていた。横にいたおばあちゃんが、絵本を覗き込んで
いる。まわりは海どころか山もない、マンションばかりだ。すぐ近くに小さな公園。ちょっと歩けば来年から行くことになっている小学校。もっと歩けばスーパー。海なんかどこにもない。みいちゃんは口をとがらせて反論した。
「冗談やろ?」
 おばあちゃんはおかしそうに笑った。
「うそやないで、大阪全体が三日月の形をした長くて細い湾やってん」
 おばあちゃんはえびせんべいを両手でかじり、それをたてにして、かじり跡を指さした。
「ここが海岸やったが、砂が積もって陸地になった。今でも掘ったら桜貝やアンモナイトの化石が出てくる」
 眠気が吹き飛んだみいちゃんは、スコップを持って近くの公園に走った。夕暮れ近かったが友達もまだ二人いた。しおちゃんとえっちゃん。
 おばあちゃんの話を教え、三人で土を掘った。十センチも掘っただろうか。
「ほんまにあった。桜色の貝」
「ここにもある。小さくてかわいい」
アンモナイトも欲しい」
 どんどん掘っていると、突然しおちゃんがみいちゃんの腕をつかんだ。えっちゃんは立ち上がった。
 目の前が蒼い海になっていた。上半身裸の子供たちがいる。その中の一人がみいちゃんたちに気づき、手に持っていた小さな貝をくれた。笑顔で。
 海の水かさが増えていった。子供たちはいなくなった。みいちゃんたちのまわりは深い海の中になった。呼吸はできる。もらった貝を大事に持ちながら海の底から上をみあげた。見たことのない魚が大きく頭の上を旋回する。海藻でできた絨毯が揺らいでいる。色とりどりの魚が泳ぐ。
「ほんまに大阪は海やったんやぁ」
 みいちゃんたちは公園で掘った穴の中で寝ていた。桜貝とアンモナイトの化石をもっていた。