読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

第二回「大阪てのひら怪談」佳作受賞作品

作品タイトル:梅田ビッグマン前にて 
筆名:寒池笑

二回生の夏。夕方、私は梅田のビッグマン前にいた。飲み会の待ち合わせだったと思う。
大勢が行き交っていた。たむろしている人も多い。近くにいた会社員の集団が騒々しく、私は苛立ちながら待っていた。誰も来ない。
「ちょっとニイちゃん」不意に背後から呼ばれて、私は振り向いた。両手に大小いくつものバッグやレジ袋を提げ、厚手のニット帽を被った、老婆が立っていた。
この暑いのにダウンジャケットを着ていた。焼けた顔を強張らせ、私をじっと見ていた。
「やっぱりや。○○くんやろ?」老婆は私の名前を口にした。驚いていると、「××さんとこの」父の名前だった。かろうじてうなずくと、「これ渡しといて。××さんに」 
彼女は小さな、白いレジ袋を差し出した。中は見えない。毛羽立った手袋をした手が震えている。反射的に受け取ってしまう。軽い。「あの、ど、どういう」
「△△言うたらわかるわ。◎村△△」レジ袋を落としそうになった。彼女が名乗ったのは母の名前だった。頼むで、と老婆は言って、雑踏の中をすたすた歩いて行った。一人の友人が入れ違いに現れたので、ことの次第を説明する。「ガラクタか何かやろ、普通に考えて」友人はあっけらかんと言った。レジ袋の中には、ピンクの薄い冊子が入っていた。汚れてもいないし折れてもいない。こわごわ手に取って、最初のページを開く。「うわ」覗き込んでいた友人が後ずさった。冊子はアルバムだった。L版の写真が並んで入っていた。全て焼肉の写真だった。赤い肉を丸網に並べて焼く過程が、ほぼ真上から、時系列順に。
 すぐさま幹事に電話し、予約してもらっていた焼肉屋をキャンセルさせた。

 アルバムはレジ袋に戻し、空き缶用のゴミ箱に突っ込んだ。飲み会の記憶はない。