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第二回「大阪てのひら怪談」優秀賞受賞作品

作品タイトル:サヨナラしたいの 

筆名:紅侘助

 

もうほかに方法はないのだと思った。

 あらゆる手段を講じてきた。色んな人に相談した。助力を仰いだ。でも誰も解決できなかった。お金も使った。時間も費やした。期待した効果が出ることはなかった。

 東京に住んでいたら井の頭公園の池でボートに乗っていただろう。池の主の弁天さまの嫉妬で男女は別れさせられるという。

 大阪では天保山で同じことが起きると噂される。理由は知らない。知らないのだけれど、海遊館で遊んだ後に大観覧車に乗った男女はことごとく別れる定めにあるという。

 だからわたしはここに来た。

 ゲートを通ってエスカレーターで最上階の八階に上がる。世界各地の様々な海を巡りながら、一フロアずつ少しひんやりした空気の中を下っていく。その間ずっと一方的に話しかけられる。言っている意味が分からない。

 何かを察するのか、愛らしいラッコもアザラシもガラス越しにこちらに目を向けるやいなや、厭なものを見たかのように顔を背けて泳ぎ去ってしまう。早く楽になりたい。

 大観覧車に向かうためにゲートから退場する。当日再入場のスタンプなど捺して貰わない。わたしの気持ちなどお構いなしに続く男の声は止まることを知らない。

 巡ってきた赤いキャビンに乗り込む。わたしは景色など愉しむ余裕もなく、ただうつむいて耐え続ける。耳元で低く囁く男の声に、時折英語と日本語のアナウンスが重なる。

 キャビンが地上百メートルの頂点に達した頃、不意に静けさが訪れた。長い間鉛を背負わされていたかのように重かった身体がすぅっと軽くなるのを感じる。

 一周巡って一人でキャビンから降りる。もう男の声は聞こえない。気配も感じない。

 ようやくこれで終わったのだ。

 わたしが安堵の息を吐くのと、無人のキャビンの内側からガラスが激しく叩かれる音が響き始めるのは、ほぼ同時のことだった。