読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

個人賞:酉島伝法賞

作品タイトル:「道ばたで。」
筆名:ひびきはじめ

 

 わしらに怖い話知らんか? てニイちゃん酔狂な奴っちゃなあ。そんなもん魚つかまえてあんさん泳げまっか言うてるようなもんやで。え? もしかして怖い話て、ひゅぅどろどろ恨めしやぁの方かいな。

 そやなあ、そない言うたらだいぶ昔のことやけど、手配師しとった知り合いからいっぺんだけこんな話を聞いたことあるなぁ。

 さっぶい冬の朝のことや。ひとりのおっさんが、おっさん言うても爺さんやけどな。道ばたで死んどったんや。凍死やな。まあ、ようあることやし、あとのことは役所の連中がちゃんとしたってくれよったんやけどな。

 何日かしたら、朝、仕事求めて集まってる連中の中に、そのおっさんが立っとったいうんや。顔見知りの奴らはそらびっくりはしよったけど、幽霊が怖いやなんて思とる奴はひとりもおらへん。生きた人間や銭の方が怖いことを身に染みて知ってる連中やからな。

「おっさん、何してんねん」

「おっさん、お前こないだ死んだやんけ」

「あほちゃうか。ぼけてたらあかんでぇ」

 寄ってたかってボロクソや。

「もうおっさんはこんな寒い朝に仕事貰いに来んでもええんや。もう、えらい目してきばらんでもええんやでぇ」

「ほんまやで。あの世で好きなだけ寝て喰うてしてたらええんや。トットと帰れ」

 黙って聞いてたおっさんは、そのうち、つーっと涙を流しよったそうや。

「そうか、わし死んだんか……そうか」

 そない言うと、なんや寂しそうな、ほっとしたような顔して消えよったそうや……。

 なんや湿っぽい話になってしもたな。

 ほんでや、ここに並んだ腕時計、ちゃんとした店で買うたら五十万はする高級品や。特別に五千円にしといたるわ。え? ほんまに買うんか。おおきに、ほな五千円丁度のお預かり。よっしゃサービス。五百円バックや。これでうどんでも喰うて帰ったらええわ。