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受賞作:佳作

作品タイトル「出身地」 
筆名:久瀬たつや

 

最初に異変に気がついたのは、バイト先の後輩たちと会話をしていた時だと思う。話題は地元の名産品についてだった。

 お米が美味い、みかんが有名など名物自慢が続く中、私が「うちの地元は何もない」と口にしたら、皆が変な顔をしたのである。

「え、先輩の地元色々あるじゃないですか、たこ焼とか豚まんとか」

 どうにも会話が噛み合わない。そんな名物は無い、と言ったところ、後輩は驚いたようにこう言った。

「だって先輩、大阪出身でしょう?」

 私は生まれも育ちも神奈川県だ。両親も祖父母も神奈川県民で、親戚も知っている限り全員県内に住んでいる。と答えたら、皆が一様に「嘘だー」と言って信じようとしない。「だって先輩、どう見ても典型的な大阪人じゃないですか」と妙なことを言われた。

 どういう意味だ。私は大阪出身どころか、大阪に行ったことすらない。口調だって標準語だ。野球や漫才にだって興味はない。典型的な大阪人とは何をもって言っているのだ。私は憤慨した。

 しかしそれからもなお不可解な出来事は続いた。レジを打っていると私のところに来るお客ばかりが何故か小銭を出す際「はい三百万円」だの「おつりは二百万円ね!」だのにやにや笑いながら言ってくるのだ。意味が解らない。肉まんを売れば何故かソースをつけろカラシをつけろと言われる。そんなサービスはやっていない。ヒョウ柄の服を着たおばちゃんが飴をやたらと押し付けてくる。そして私が反応に困っていると、皆が怪訝そうにこう言うのだ。「あんた大阪人だろう?」と。違う。私は神奈川県民だ。

 先日自動車学校に通うために住民票が必要になって役所に行ったら、本籍所在地が違うと言われた。意味が解らない。私は神奈川県民だ。神奈川で生まれ神奈川で育ったんだ。断じて大阪府民ではない。知らんけど。