読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

受賞作:優秀賞

作品タイトル:「遊ぼ」
筆名:光原百合
 

 故郷から大阪に出てきて、半年ほど経った頃だった。わたしは毎週末のように、大学の友人に連れられてキタ界隈で遊んでいた。大阪の街は、そうして駆け足で着いていかなければ置いて行かれそうな、華やかなせわしさに満ちていた。

 その日も友人と待ち合わせていた。地下街に噴水をこしらえたスポットは絶好の待ち合わせ場所らしく、人待ち顔に佇む人たちが多かった。

 友人はなかなか来なかった。すっぽかされたのかな。あたしなんかと遊んでもつまらないだろうし……。急にそんな思いがぽかんと浮かび上がってきた。それまで彼女に冷たくされたわけでもないのに、どうしてそんなことを思ったのかわからない。そのとき、斜め掛けしていたポシェットを下から引かれた。

 そこに、女の子がいた。古風なおかっぱ頭に黒目がちな瞳だけが印象に残っている。女の子はわたしを見上げて、「あそぼ」と言った。

 「だめ。もうすぐ友達が来るから」とポシェットを引いた。女の子は手を離さなかった。

「来ないよ。おねえちゃんはひとりぼっちだよ。だから、遊ぼ?」

 女の子はくひひ、と笑った。そのとき、

「あかん、ひとの邪魔したらあかんで」

 威勢のいい声がした。

「アメちゃんやるさかい、一人で遊んどき。この街にいてるつもりなら、一人で遊べるようにならな、あかんで」

 見ず知らずのおばさんが、女の子に向かっててのひらに乗せた飴玉を差し出していた。女の子はまるで大人のような舌打ちをすると、飴玉を取って、――消えた。

 わたしは思わず、つめていた息を吐いた。

「姉ちゃん、気ぃ付けや。この街には、一人遊びの苦手な淋しがりが、ようけいてるさかいにな」

 おばさんはそう言って豪快に笑うと、のしのしと歩み去った。