2017-11-29から1日間の記事一覧

応募作122

「ふれあい動物園」 高家あさひ 「どうぶつえんまえー、どうぶつえんまえ」 駅に電車が止まるたびに繰り返されるこのアナウンスに、ぼくはまだ慣れない。「まえ」の部分が上がって下がるイントネーションではなく、平板に発音される。そのことへの違和感が、…

応募作121

「太閤はん」 中野笑理子 会社の登記簿謄本を取りに、谷四の法務局まで行った。庁舎を出ると時刻は昼前、オフィス街の客を目当てにお弁当の販売車がそこここに出店している。さて、お昼はどこで何を食べようか、それともお弁当を買って帰ろうか、見上げた晴…

応募作120

「常連客」 浩光 大阪てのひら怪談「常連客」 夏の雨。夜8時頃。タクシーの運転手のAさんは梅田の紀伊国屋書店からミナミへ男性客を乗せた。普段仕事に使っている車を車検と修理を兼ねて整備工場に出していたのでその日は、同じ会社の同僚の違う車種の車を…

応募作119

「マットプレイ」 船生蟹江 「お願いします。この辺詳しくなくって、やっとここに辿り着いたんです」 徹夜覚悟の出張仕事が予定外に早く終わった。御堂筋線の周辺は深夜でも明るいほうだが、宿を探して長々と歩き回ろうと思えない。だから仕事場から唯一見え…

応募作118

「看板に偽りあり」 大庭くだもの 立て看板には〈のっぺらぼう〉とある。わたしはマレーグマを見たかったのだが。 小糠雨がしとしとと降る動物園は人影もまばらだった。檻のまわりにはわたし以外、新世界からながれてきたらしき酔っ払いがひとり、四阿のベン…

応募作117

「女と焼肉」 洞見多 琴歌 「焼肉御馳走してくれるって言うから、鶴橋にでも連れて行ってくれるのかなって思った」 図々しい奴だと、俺は内心でヨシミを罵った。 お前に御馳走する義理などない。「たくさん肉が手に入ってさ。俺の家の中で悪いけど、どんどん…

応募作116

「新婚旅行」 瀬島 「えぇ、大阪に行くの?」 母はあきらかに不満そうだった。「うん、あんまり行ったことないし」「大阪、大阪ねぇ。新婚でそんなところ行くの? 美里さんが可哀想よ。 行くなら神戸にしたら? ねぇ、美里さん」「あはは、でも私も大阪って…

応募作115

「山道のパーカー」 洞見多 琴歌 岩湧山に登った日、下山時刻が遅れた。まだ山の中腹なのに、夕方の一六時を過ぎていた。山行は日没までの下山が鉄則。灯の無い山道は、日が暮れるとすぐに暗くなる。かといって、焦って傾斜を走れば事故につながる。日が暮れ…