2017-11-28から1日間の記事一覧

応募作114

「彼のいる場所」 しんおかこう 橋の欄干にもたれて川を眺めていた。しとしと降る雨で、前髪から不規則に雫が垂れて鼻先を打つ。 この橋、題は忘れたが織田作之助が短編でみすぼらしいと書いていた橋。あの大江橋と比べてしまっては確かに華々しさはないだろ…

応募作113

「そのケモノとあのケモノ」 極北の山田 そのケモノにはあのケモノとは異なっている特徴がいくつかありました。 まず、人間の言葉を理解し、人間のように物事が考えられたのです。だからこそ、ケモノは自分があのケモノと違っているということに気づけたので…

応募作112

「橋と顔」 極北のヤマダ ほうか。明日が花火の日やったな。カズはちゃんと覚えとるんか。東京に住んどるのにな。え?あ、もう4年生か。ははは。4年生やったら忘れへんか。せやな。帰るのは明後日やろ。お父さんかお母さんに連れてってもろたらええわ。 ん…

応募作111

「河内湾」 万年青屋 地震の翌朝、起きてみると、町は水底に沈んでいた。 はるか頭上で、日の光がゆらゆらと揺れている。ちょうど二階建ての屋根のあたりが水面なのだろう。あたりはふだんより薄暗く、青い光に満ちていた。 雑居ビルの一つが三階建て以上あ…

応募作110

「話こうて」 K・N 大阪は落語発症のところだそうだ。その土地に関して嘘のような、法螺の様な話を聞いた。あるところに話査定屋というのがあったそうだ。どんな話でも、それがどんな話が評価をしてくれたそうだ。 ある時、八兵衛という男が自分の話を査定し…

応募作109

「くすぶり」 猫吉 大阪ではくすぶりと呼ばれていた将棋の真剣師がまだ存在していた頃の話だ。 通天閣のすぐそばに三Kクラブという将棋会所があった。そこにくたびれた背広を着た中年男のくすぶりがいた。 ひょんなことからそのくすぶりと対局することにな…

応募作108

「URL」 天野さん http://www.pref.osaka.lg.jp/ URLをクリックすると、ごちゃごちゃとした画面が表示される。 万博招致。環境施策。防災。福祉。振り込め詐欺に注意!エトセトラ・エトセトラ。 右上には選挙の時期によく見る知事の写真もある。 これ…

応募作107

「みっちゃんのいたずら」 たなかかなた 日曜日いたずら好きのみっちゃんから電話がきました。『すごい事思いついたよ。大阪に...』そこで電話は切れました。明日学校で詳しく聞こうと思います。 月曜日みっちゃんが学校に来ませんでした。先生が『あいつは…

応募作106

「大阪ラ・ボエーム」 安藤麗 よくいう金の切れ目が縁の切れ目。ましてや相手が大阪の女性なら、僕のような貧乏画学生にはそろそろ愛想も尽きて当然、なのに、いつもこうして無報酬で絵のモデルを務めてくれる。 今日の制作ははかどらなかった。夜も遅いし、…

応募作105

「四十九日のかさのもち」 松岡永子 ご本家のひいばあちゃんが亡くなった。 本家は古い家だ。たいした格式はなさそうだが、とにかく古い。小さい頃にはよく泊まりにいった。 ひいばあちゃんはいつも一番奥の座敷にいた。 ひいばあちゃんはぼくを特別に可愛が…

応募作104

「阿倍野王子町あたり」 松岡永子 路面電車を降りて路地に入る。 ぼくはほんとうに方向音痴なのだけれど、あっさり安倍晴明神社に出る。稲荷社の鮮やかな朱が目に飛び込んでくる。記憶ではもっとくすんだ風景だった。清明産湯の井。前脚だけを地につけた、降…

応募作103

「暗峠」 光道 進 国道は細くうねり、東大阪に延びている。車1台がすれ違うのがやっとの道途中より歩くほかない急な坂道になり舗装も消える。 二人はその街道に足を踏み入れたのは初めてだった。車を途中で山脇の道に止め歩いて史跡を回るはずだった。軽いハ…

応募作102

「愛りん」 光 道進 大阪に始めて来た。 大阪出身の友達が案内してくれた。 ホテルや旅館を当たるが金のない俺にとってはきつかった。 友達は思い出したように「あそこなら安く泊まれる。」と言うと案内してくれた。ドヤ街の中を歩き1000円という格安ホテル…

応募作101

「臨時ニュース」 ジョニー・デップリー 臨時ニュースです。堺市堺区田出井町の大阪刑務所から脱獄し逃走していた男は、先ほど立ち廻り先で、警察官に身柄を確保されました。 脱獄者関連の続報です。先ほど身柄を確保されたと報じた男性ですが、脱獄し逃走し…

応募作100

「おっさん山」 伊止止 「おっさん山」は、子供の頃近所にあった雑木林の小山だ。「おっさん」とは山の地主の爺さんのことで、無断で山に入って彼に見つかると、怒鳴られ長い説教を食らったものだ。 夏のある日、虫捕りに「おっさん山」に入った友達が、大人…

応募作99

「重要機密」 剣先あおり トムクルーズ主演の「宇宙戦争」が公開されたとき、大阪中が騒然となったのは「大阪では(トライポッドを)何体か倒したらしいぞ」というセリフだった。 何故、東京ではなく、大阪なのか。どうしてスピルバーグがその理由を知ってい…

応募作98

「柳と双鳥の皿」 勝山海百合 去年の暮れ、東洋陶磁美術館で汝窯の水仙盆をじっくり眺めた帰り、なにわ橋駅の券売機前に戸惑う様子の男性がいたので声をかけた。灰色のギャバジンのコートを着た三十歳くらいの人で、聞けば堂島に行きたいとのこと、切符の買…