2017-11-22から1日間の記事一覧

応募作97

「餌」 大和川葭乃 鳥は恐竜の進化した姿だという。今こうして、アオサギを間近にしてみると、先日テレビで観た遺伝子操作で現代に復活した恐竜が人間を襲いまくる映画に出てくる小型の恐竜に似ていなくもない、と思えてくるから不思議なものだ。 粉浜の商店…

応募作96

「振り返ってはいけない」 夏目あみ 「難破橋の幽霊が出るって話知ってるか?」彼女もいない仕事もできない貯金もない男の二人で スマホをいじりながら生ビールを飲んでいた「知らないです」「戦時中に難破した船があったそうで出るらしいよ」「え・・・なに…

応募作95

「ナイトウォーカー」 れふにゅ 今年の三月頃、夫から聞いた話。「昨夜も今夜も、同じ人を見かけたんだ。女の人。昨夜は幼稚園の前で、今夜は車の工場前で。ご近所さんかなって思ったんだけど、全然知らない人だった。さっきすれ違ったときに目があっちゃっ…

応募作94

「にわとり」 七 仲良くしていた先輩がいなくなった――。 寛子から相談を受けた伽歩は、とりあえず会って話を聞くことにした。「部屋にあったんは、これだけ。天神さんの古本まつりに行くって言うてたから、多分そこで買うたんやと思うけど」 鶏の表紙イラス…

応募作93

「Diversity」 伊止止 何度目のかの来阪か。私は道頓堀を訪れた。 聞こえてくるのは大阪弁よりも、観光客の土地の方言、そして外国語の方が多い。 よそ者だらけの中を、やはりよそ者の私はふらふら歩く。ユニークな看板やオブジェに囲まれて<私はどこにいる…

応募作92

「思い出焼き・キャリー」 新熊 昇 ぼくは屋台であまりものを食べたことがない。そもそもあまり外へ出かけないし、出かける時は軽四だし……。たまたま大阪の街を歩いていて、キャベツとソースの焦げる匂いを漂わせているお好み焼きキャリーを見かけて、思わず…

応募作91

「閉店セール」 司條由伊夏 いつでも閉店セールという店が、大阪にはある。「もうあかん、閉めます」と言いながら何年も何年も閉店セールを続け、「いつ閉めんの」と聞けば、「夜には閉めとる」と返されるような店が。だから本当に閉店してしまったのには驚…

応募作90

「追憶からの来訪者」 湯菜岸 時也 土曜日の晩、十三のラウンジで子供の頃、こんなTVドラマがあったのを思い出した。 殺人事件に巻き込まれ記憶喪失になった主人公の青年が、唯一、覚えているオレンジの帽子を被った女を探して彷徨うのだが、その行く先々…

応募作89

「新千里ムーンラプソディ」 湯菜岸 時也 やわらかな日差しを浴びた空気を散らし、肌に刺す冷気を含んだ疾風が路地から吹きあげて街路樹を震わせる。遠雷が聞こえた。 と、思ったら、救急車のサイレンの音が団地内に轟いた。今年は老人の急病が多い。 友人は…

応募作88

「《はぶくの》駅の風景」 湯菜岸 時也 近鉄の羽曳野駅だと思って電車を下りたら、駅名は《はぶくの》で、駅員のいない無人駅だ。思わず舌打ちが出てしまう。 妙な駅舎で、プラットホームにドーム状のコンクリートの屋根と壁が被さった構造になっており、ま…

応募作87

「池に映る」 久遠了 春には見事な桜で賑わう「いわたちばな公園」は、閑静な住宅街にあった。遊歩道に囲まれた大きな池があり、場所に不似いな「地獄池」の名で呼ばれていた。「古来から地獄と呼ばれる土地は、温泉や炭酸を含む水が湧いていることが多かっ…

応募作86

「難波恐怖体験」 前 順平 それはハロウィンの日に起きた出来事だった。 ひっかけ橋で私は声をかけられて、ほいほいとついていったのが間違いだった。私は魔女のコスプレを、隣に寝ている彼は、ねずみ男のコスプレをしていて、私たちは今夜出会ってワンナイ…

応募作85

「心霊スポットの噂」 宝屋 関西では会話の語尾に「知らんけど」とつける。これはほかの地域の人からしたら先ほどの話の真偽が混乱してしまうようでとても嫌われていた。 大阪の繁華街に割と有名な心霊スポットがある。しかしながら、「友達の誰某の知り合い…