2017-10-31から1日間の記事一覧

応募作66

「おおきに」 長野あき 浮浪者とぶつかった。スーツにワンカップの日本酒がかけられ、安物のアルコールがしみ込んだ。「すんませんなぁ。お兄さん」 瞳が濁り、髭がだらしなく伸びた汚い小男だった。すえた匂いが鼻につき、思わず舌打ちをする。「足がこのと…

応募作65

「灯」 中森臨時 「振り向くとそこには、殺したはずの女が」 さすがにネタ切れか。昨年の大阪てのひら怪談で賞を取った作品だ。 話を終えた直樹が輪の中心まで行き、一吹きで灯りを消す。 これで九十九話。残る蝋燭は一本。もう、自分の隣にいる友人の顔も判…

応募作64

「黒いポルシェ」 葛本益人 その車は、門真市内を走る私鉄の高架線路の下に停めてある。乗り捨ててあると言った方が正しいのかも知れない。長年の土埃が分厚くこびりついた黒のポルシェで、僕が知る限り十年以上そこにある。自転車通勤している僕はフェンス…

応募作63

「終電」 剣先あおり 爺ちゃんは元気だった頃、僕をよく散歩に連れて行ってくれた。両親が共働きだったので、代わりに可愛がってくれたのだと思う。 でも爺ちゃんは調子が悪くなり、一度は入院したけど、すぐに家に帰ってきて、それからずっと奥の和室で寝た…

応募作62

「血」 中森臨時 「俺は純粋な大阪人だから」。昔付き合っていた男の口癖。「俺は純粋な大阪人だから、この味は許せないな」「俺は純粋な大阪人だから、この映画は……。」「寝坊してごめん。俺は純粋な大阪人だから」等々。大阪弁を捨てた人間が何を言ってい…

応募作61

「お地蔵さん」 ふじたま 路地のドンツキにお地蔵さんがある。「めずらしいな。おっちゃんがお地蔵さんにお参りやなんて」「儂かて、お参りしようと思うことぐらいあるわい。けど、うちの死んだ爺ちゃんは、お地蔵さんが恐うてしょうがないとずっと言うてた…

応募作60

「母の話」 たなかかなた とても霊感が強い母は、昔から色々なモノが視えたそうです。母が子供の頃、大阪の親戚に会いに行く時に、必ず通ったトンネルの話を、私にしてくれたことがあります。車の運転は母のお父さん、つまり私の祖父の役割でした。祖父の運…