2017-10-16から1日間の記事一覧

応募作52

「あばうとに、いきます」 巌岳 糸子 とにかくラッキーだった。美術展の入館制限は私たちのあとで締め切られたし、人気の店のランチは急なキャンセルで席が空いたし。 そんな二人は先程まで、予約ができないから入りたければ並ぶしかないというカフェでアフ…

応募作51

「はよ帰りや」 浩光 Aさんの30年ほど前の体験。 金曜の夜。法善寺の境内を抜けてすぐの路地奥のバー。「ジントニック。ゴードンで」。煙草に火を点けた。最近はバーなのに禁煙などという理不尽な店もあるが、やっぱりバーには紫煙がないとな・・・・ ジ…

応募作50

「猫屋敷」 文乃 「お腹すいてへんか?」と、おばぁが言った。私の目の前に出されたのは、お好み焼きだった。大阪出身のおばぁが作る料理は絶品で、私はお好み焼きが大好きだった。おばぁはこの家に一人で住み、九匹もの猫を飼っていた。みんな捨て猫だった…

応募作49

「純喫茶とあの子」 青山藍明 道頓堀でいちばん派手で、よそ行きが似合う、あのお店。 きらきらしたシャンデリアと、おおきなテーブル。 ショーケースのなか、きちんと並んですましている、食品サンプル。 純喫茶、マウンテンはあの子と私、それからみんなが…

応募作48

「線路の老人」 宝屋 もう30年近く経つ。兄弟に誘われて当時自己啓発セミナーとやらに参加した。そこは朝から終電間際まで延々と自己否定から始まりなんの自己啓発だ?と訝しんでそろそろ参加を断ろうとしていた頃だ。 地下鉄に乗り、市内中心部に向かう電車…