2017-09-19から1日間の記事一覧

応募作23

「地下三階…」 花月 初 土佐堀川を背にして建つ古いビルの8階が事務所でした。ホワイトボードに書かれた帰社時刻は未定。〆切近い営業社員は皆いつものことでした。 陽が落ち 外はすでに暗い。「8階事務所出ますー営業は帰るのかどうかわからんし鍵閉めます…

応募作22

「ゆでだこ」 泰子 よく晴れた日曜の朝、いや、もう十一時すぎか。彼女が台所でばしゃばしゃ「朝から何やってるねん」「黒門市場で買うてきた蛸に塩すりこんでるねん。このねばねば、塩で揉んでから茹でんと綺麗に茹で上がれへんのよ」「その蛸何にすんのや…

応募作21

「お好み焼き屋」 泰子 長い間の不倫がやっと清算出来たと、知り合いがお祝いの席を設けた。 お招き頂きいそいそと出かけて行った。 通天閣下でお好み焼きの店をしている女将だが、馴染みの客とねんごろになって久しい。相手の岡田さんは俺も見かけたことが…

応募作20

「路地裏の蛸」 泰子 ぽとん。 なんや? 心斎橋筋の阪急百貨店前を歩いていると、目の前にたこ焼きが落ちてきた。 周りを見回すが、たこ焼き屋もたこ焼き食いながら歩いてる奴もおらん。 アジア系の外国人が、わあわあ解らん言葉で喋りながらスーツケースを…

応募作19

「肉」 最東対地 今から十数年前の話。そびえ立つ通天閣を囲む、浪速の町・新世界に行った時のことだ。今ほど外国人でごった返していなかった新世界は、賑やかではあるものの汚く、小便の臭いとどて焼の匂いが入り混じった場所だった。特にジャンジャン横丁…

応募作18

「智子」 最東対地 松島新地という色街があるらしい。「あるらしい」としたのは、わたし自身聞いた事がなかったからだ。飛田新地は今や観光地として有名で、関西の男で知らない者はいないだろう。しかし、飛田新地以外の色街があるなど考えもしなかったわた…

応募作17

「河内磐船駅の廃病院」 最東対地 交野市にある河内磐船駅を降りたロータリーに車を停め、おれは友人の田中がくるのを待っていた。田中は中学時代からの友人で、会うのは随分と久しぶりだった。仕事の都合で地方に引っ越して以来、十数年ぶりの再会。その機…

応募作16

「ビリケンさんの町」 高家あさひ 私はビリケンさんのいる町に住んでいる。 というとだいたいの人には大阪? と聞かれるが、そうではない。アメリカの、平原を流れてきた大きな川が二本まじわる、そのほとりにある町だ。ここのビリケンさんは大学のマスコッ…

応募作15

「信太森葛葉神社」 籠 三蔵 初秋の冷たさを含んだ雨が、銅拭きの屋根にしとしとと降り注いでいる。地元唯一の有名スポットとも言える北信太の葛葉稲荷は、幼い頃、裏手の公園で友達と遊びに興じた後、神様に挨拶をして帰るうちに、自然と私の心の拠り所とな…