2016-02-20から1日間の記事一覧

個人賞:田辺青蛙賞

作品タイトル「接触」 筆名:国東 もう握手やめよっか、とみざおりちゃんが言った。他の人とはしているのにって思ったけど、特別扱い感じたことも確か。俺たちはいつも手の甲でぽんぽんと励まし合った。騙されてるって思わないようにしてたかな。羨ましがっ…

個人賞:山下昇平賞

作品タイトル:「蒲公英」筆名:和口 比沙子 上町筋の大手前交差点に押しボタン式の横断歩道がある。三年前の冬、まだ薄明るい早朝に、私は一人でそこに立っていた。二十近く年の離れた妻子持ちの男と外泊し、朝帰りの途中だった。男は北海道から強引に会い…

個人賞:酉島伝法賞

作品タイトル:「道ばたで。」筆名:ひびきはじめ わしらに怖い話知らんか? てニイちゃん酔狂な奴っちゃなあ。そんなもん魚つかまえてあんさん泳げまっか言うてるようなもんやで。え? もしかして怖い話て、ひゅぅどろどろ恨めしやぁの方かいな。 そやなあ…

個人賞:東雅夫賞

作品タイトル:「愛染橋(あいぜんばし)」筆名:榛原 正樹(はいばら まさき) 「たしか、前の不発弾処理のときもこの顔ぶれやったねぇ」 窓辺の席に座った良枝は杖を引き寄せ、曲がった腰を伸ばしながら隣の男性に言った。 「ほんまになぁ。もう滅多に会う…

個人賞:牧野修賞

作品タイトル:「ちいさないし」筆名:久遠了 昔は男にも名前があった。故郷を捨て、悪逆非道の日々を送った今では、その名で呼ばれることはなかった。余命わずかと知った時、男は故郷に帰った。様変わりした街に、痩せ衰えた男はため息をついた。夕暮れ間近…