第三回大阪てのひら怪談の応募は締め切られました

投稿いただいた皆様にお礼申し上げます。

これから審査員が全ての投稿作を読み、評価を行いSUNABAギャラリーにて結果を発表致します。

★「参加型イベント! 大阪・大怪談会」

日時:2018年2月11日(日)17:00~19:00
出演:ひらかた怪談サークル
入場料:1,000円 

ひらかた怪談サークルがSUNABAギャラリーにやって来ます!怪談を聞きたい人!語りたい人!どちらも大歓迎なイベントです!!

★「つくることとかくこと」

日時:2018年2月12日(月)16:00~17:00
出演:吉村萬壱、酉島伝法
入場料:1,000円

お二人に書くことと描くことの違いや思いについてや、作品制作の裏話?等について語り合っていただくイベントです。

 

★「第三回大阪てのひら怪談結果発表会」

日時:2018年2月17日(土)16:00~18:00
出演:東雅夫、山下昇平、牧野修、酉島伝法、田辺 青蛙
入場料:2,000円

第三回大阪てのひら怪談の結果発表を行います。

審査員による朗読と選評についてそれぞれの審査員が語ります。

★イベント参加お申し込み

参加ご希望の方は、下記フォームからお申し込みください。

「大阪てのひら怪談 参」2018年2月10日(土)~21日(水) SUNABA ギャラリー

http://sunabagallery.com/upcoming/20180210_ghost/ghost.html

 

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SUNABAギャラリー 
〒530-0015 大阪市北区中崎西1-1-6 吉村ビル302
Tel.080-6145-7977
sunabagallery@gmail.com

http://sunabagallery.com

 

応募作177

「街灯の下に」

岡花光鬼

 

チカチカと明滅する街灯の下には、少女が立っている。その白い肌は街灯の光の中で朧げに浮かび、ふわりと柔らかな綿毛を連想させた。けど少女に気づく者は誰もいない、僕を除いて。
一体いつから、何故そこにいるのか。この少女もまた、今にも消えて無くなりそうだった。

少女の足元には小さな花が一輪咲いており、彼女はそれを見守り続けている。花を打つ雨や優しく揺らすそよ風にも、彼女は表情を変えたことはない。
僕は以前彼女の傍に近寄ってみたことがある。けど気づかないのか、視線は足元を向いたままだった。僕は悲しく思いながらも、少し離れた場所から彼女を見守ることにした。
彼女は時々ふと空を見上げる。普段は表情のない彼女が晴れの空をどこか曇った眼差しで見ていたのが印象的だった。彼女の胸の内は、僕にはわかりそうもない。
フッと街灯が消え、ややあってからツンと音を立て明かりを戻した。よかった。まだ彼女はそこにいた。

遠くから賑やかな笑い声が近づいてくる。この路地はミナミから別の場所へ徒歩で移る者が時々通る。大声で話す男と、その話に大笑いで応える女たち。明らかに酔っ払いのそれだ。
僕は咄嗟に物陰に隠れ彼らが通り過ぎるのを待った。すぐ傍にいる少女にはやはり気づく様子はない。
すると男が唾を吐き捨てた。少女が初めて顔をハッとさせる。僕も思わず頭を上げた。唾は少女の足元の花にかかった。少女の目が悲しみで歪む。花は見る見る茶色くなり、萎れ、地に頭をつけた。
街灯が消える。次に点くと、少女の姿はなかった。

とうとう、消えてしまった…。
その後すぐに街灯も消え、明滅を辞めた。

肉体も記憶も失った僕が何故少女に固執したのか。それは結局わからなかった。
今朝河底池に男が浮かんでいたらしいけど、そんなことに興味はない。

煌々と灯るようになった街灯の下で、僕は待っている。
次はタンポポが咲くといいな。

ヒゲがむずつく。雨が降りそうだ。

花はまだ咲きそうにない。

応募作176

「みがわり人形」

春南 灯

 

「ごめんくださーい」
玄関に出てみると行商の女が佇んでいた。
「みがわり人形。千円でいいから」
そう言って、ぐいと押し付けて来た人形は、20センチほどの和人形。
断って粘られるのも面倒なので、言い値を女に渡す。
女は、にたりと嗤い、雨の街へ消えていった。
やれやれと人形を見ると、足の裏に小さく文字が書いてある。
「おおさか みがわり人形」
胡散臭いなぁ。
人形を下駄箱の上に置き、居間へ向かう途中、 箪笥の角に勢いよく左足の小指をぶつけてしまった。
痛みに堪えながら、一言呟いてみた。
「身代わりになって」
その瞬間、嘘のように痛みがひき、人形を見に行くと、左足が無くなっていた

応募作175

「結びの一番」

伊藤 智恵理雄

 

「宇良よ。おまえはタコ焼きでも食って、俺の闘いぶりを見とれ。
 大横綱谷風梶之助の連勝を止めた小野川喜三郎は、妖怪にも屈さなかったと言うぜ。
 この豪栄道豪太郎も大阪相撲の伝統を受け継ぐ力士、大関としての誇りがある!
 河童なんぞに負けられん!」
 豪栄道は、その気迫を本場所で発揮すれば、平幕相手の取りこぼしもなかろうという厳しい立合いを見せた。小柄な河童がその当たりを受け止めたのは驚きしかない。
 直線的な豪栄道の押しを、河童は回り込んで交わす。低く潜り込み河童十分の四ツ、そこから緑の手がマワシを離れ、尻に伸びる。さらに耳元に黄色の嘴を寄せ、挑発する。
「尻の穴から手つっこんで尻子玉ガタガタいわせたろか」
 豪栄道は、必死に脇と肛門を絞めた。余裕を見せていた河童の表情が、突如曇る。豪栄道が自分の体にふっていた清めの塩が、河童のヌメリを防いだのだ。形勢逆転、豪栄道は動きの止まった河童をガッチリ抱え込んだ。
「化け物には塩が効くってのは本当だな」と豪栄道はニヤリ、
「ドタマの皿かち割って脳みそチューチュー吸うたろか」
 焦った河童がむりやり腕を引き抜こうとした瞬間、豪栄道必殺の首投げが一閃!土俵に叩きつけられた河童は、高くバウンドして落ちた。
 豪栄道と宇良が、淀川沿いの土俵を去る間際、頭の皿が粉々に砕けた河童は「今日はこれくらいにしといたる」と事切れた。

応募作174

「汝の夢、己の心」

鶺鴒

 

日がとっぷり暮れた。私は身体も動かせず、声も出せず、ただ丘に立ち尽くしている。霧雨が降り始め、煙のようなものがかかった視界がぼんやりする。後ろから若い男の囁きが聞こえた。
「僕の心に君は生き生きしている、僕に注ぐ愛の全部君に捧げる。どうか僕と一緒に愛の虹を渡って欲しい。」
この声を聞くと思いの断片が頭の中で渦巻き、胸の奥ではひそかな不安や焦燥を紛らそうとした。私と言葉を交わしたことがない彼は、いつも大阪の靭公園で不快げに眉をひそめてギターを弾いていた。その様子は大変可哀そうに見えた。私は、一目で人を好きになってしまう女ではない、ただ彼がその弦を弾くたび、胸が高鳴る。彼は、今誰かに告白しているのだろう。暫くすると、絶え間のない雨音を縫って朦朧とおり細げに自分と似てるようにも思える女の声が聞こえてきた。
「私もあなたを愛している、心から愛している。」
 霧雨が降り続き、私の眼からぽろぽろ落ちたのは涙なのか、雨なのか、よくわからなかった。赤い血潮は温度を削り取られたように肌寒くなった。これまで味わった事がない凄愴の思いに襲われ、息も出来なくなった瞬間、日輪が登りかけ、目も覚めた。
遠い星の瞬きのような悲しげに震える夢であった。でも、夢の残響がまだ薄っすらと鼓膜に残り、両肩と胸が激しく波打って慟哭した。私は現実に掴むことを決めた。涙を拭ってベッドから降り、家を出て会いに行った。それから青く澄んでいる空を仰いだ刹那、彼の胸に飛び込み、
「あなたは私の心に奪われた罪がある」と私は甘く囁いた。
私は愛の炎の眼差しで彼を凝視し、彼の清冽な視線がふと重なり合った。私は彼の透き通るほどの瞳の中に、後ろ向きの銅像が見えた。全身鳥肌の立つ思いで愕然として振り返ると、空は光と影にくっきりと塗り分けられ、生き生きしてくっすと笑っている私の姿が鮮やかに浮かんでいた。夢の中で銅像がちっとも動かなかった。はっと目が覚めた。

応募作173

「あめざいく」

春南 灯

 

朋子が、大阪で一人暮らしを始めて間もない頃に体験した話。
昭和三十年に建てられた古アパートは、隣室の生活音がよく聞こえる。おかげで孤独を感じることはないが、難点がひとつ。夜な夜な、隣人の大胆な嬌声が聞こえてくるのだ。
ーーあぁ、今日も始まった。
古びたドアノブを捻り外へ出る。月明かりに誘われ、あてもなく歩いていると誇らしげに花を咲かせた桜並木が現れた。
あまりの美しさに感嘆の声が漏れる。
佇んでいると、どこからともなく祭囃子が聞こえてきた。目を凝らすと、ぼんやり照らされた鳥居、参道の両脇に並ぶ露店、行き交う沢山の人が見える。
なんとなく灯を目指し、暗褐色の鳥居をくぐった。
肩がぶつかるほどの賑わいに驚いていると、少し先の露店に並べられた飴細工が目に留まった。
人をかきわけ、店先に辿り着く。
職人と思しき紺色の作務衣を着た爺が、温かい飴を操って何かを生み出そうとしている。棒に刺された塊は鳥の素になり、素早く鋏が入れられ、羽を得ると目前に羽ばたいてきた。
「やるよ」
爺は、きょとんとしている朋子に飴の棒を握らせると、道具を片付け始めた。
手元を見ると、繊細な飴細工の鶴が羽を広げている。
「今、手持ちがないので、ちょっと待っていてください!」
朋子は、踵を返し家へと走った。
随分歩いたような気がしていたが、僅か五分ほどの距離。
自室のドアを開け、台所のコップに鶴を挿すと、財布片手に桜並木を目指した。
だが、走れども走れども、目印の桜が無い。
見落としたのかと何度も往来したが、とうとう桜を見付けることはできなかった。肩を落とし部屋へ戻ると、台所の蛍光灯の下で、虹色に輝く鶴が羽を広げていた。

翌朝、近所の交番を訪ね、神社の場所を訊いたが、周辺に神社はおろか桜並木も無いと言われた。
そこに住んでいた四年の間、暇さえあれば辺りを探し歩いたが、ついに見付ける事はできなかったそうだ。